資本のアーバナイゼーション
林田力
都民参加への模索連絡会は夏季討論合宿を2014年7月12日及び13日に神奈川県足柄下郡湯河原町で開催した。希望のまち東京in東部からは長谷部俊昭事務局長が「地域を変えることの意義 ディビッド・ハーベェイに触発されて」を発表した。David Harveyというマルクス主義地理学者の理論から地域を変える意義を説明した。Harveyのカタカナ表記には「ハーヴェイ」など揺らぎがあるため、Harveyと記す。Harveyはマルクス主義を現代的に解釈する。その一つが資本のアーバナイゼーションである。従来の資本論理解では、価値増殖(搾取)が生産過程で行われるとの理解から、生産手段の社会化や職場が主戦場という発想になった。しかし、現実の経済は金融資本や流通資本が生産資本を支配している。
そのために個人的な見解と断りながらも、生産手段の社会化や職場を変えるだけでは社会を変えるイメージとしてリアリティがないと問題提起する。これに対してHarveyは資本によるアーバナイゼーションという概念を提示する。これは資本に都合のいい都市空間を創出するものである。その例を二つ挙げる。
第一に自動車資本による公共部門の買収と、その後の廃止である。これによって車が必要な社会にしてしまう。
第二に再開発による過剰生産物の一時的な解決である。建設資材だけでなく、オフィスや住宅開発に付随して耐久消費財などの需要を創出する。
ここから都市をめぐる闘いは階級闘争の側面を有し、理論的にも地域からの運動は重要と結論付ける。
以下は話題提供に対する所感である。アーバナイゼーションの二つの事例とも新自由主義と批判される勢力(強欲資本主義、ハイエナ資本主義、市場原理主義)の恣意性、金儲けのための御都合主義が分かるものである。自分達の金儲けのためにルールをつくり、新自由主義思想とは逆に市場を捻じ曲げている。
第二の事例は日本でも行われている。東京オリンピック便乗や国家戦略特区によって一層進められてしまう懸念がある。舛添要一東京都知事は「山手線内にも、一軒家に住んでいる人がたくさんいる。申し訳ないが、この方たちには、協力をお願いしなければならない」と住民を追い出して超高層ビルを建設する考えの持ち主である。
第一の事例も地方の赤字路線廃止という形で現実化している。しかし、もっと早い段階で実現する危険もあった。東急電鉄は東急ターンパイク・湘南ターンパイク・箱根ターンパイクなど有料自動車道路事業も狙っていた。しかし、実現したものは箱根ターンパイクだけで、それも杜撰な経営で2004年に手放した。
箱根ターンパイクを買収したオーストラリアの投資銀行マッコーリーグループは買収前に二次下請け会社だった企業を対象にして工事の入札を実施するなどコスト改善に努め、人件費を除いた維持管理費を買収前の8割程度に減らした。東急の杜撰な経営は民間企業が実施すれば官僚的形式主義や縁故主義を排除できる訳ではないことを示している。
有料自動車道路事業が振るわなかった東急グループが、その後に強欲資本主義推進勢力となったことは興味深い。東急エージェンシーら東急グループは中曽根康弘内閣の民活や行財政改革の尖兵となった(林田力「東急グループはハイエナ資本主義の尖兵」真相JAPAN第102号、2012年7月11日)。
このように資本のアーバナイゼーションは現代社会の捉え方として有意義である。「マルクスは読み直されなければない」との主張もあるが、この種の教条的な押し付けが労働組合の現場でなされたことが、若年層の組合離れの一因になった。その若年層はブラック企業批判には惹きつけられたように、現代の問題意識で捉えることが求められている。
話題提供では現代の社会状況に対応した地域の運動の重要性を説く。その主張に賛成である。それは希望のまち東京in東部のベースになっていると言ってもいい。合宿では話題にならなかったが、その先の議論に関心がある。
Harvey的な議論では新自由主義的倫理の所有的個人主義に対抗して、都市コモンズ(commons)を維持・確立・奪還しようとなる(David Harvey著、森田成也、大屋定晴、中村好孝、新井大輔訳『反乱する都市─資本のアーバナイゼーションと都市の再創造』作品社、2013年)。所有的個人主義や都市コモンズという硬い言葉を使わなければ、この手の思想はHarveyを持ち出すまでもなく、それなりに市民運動界隈で流布している。しかし、管見は、この方向性には違和感がある。
私が社会的な問題意識を抱く契機は東急不動産消費者契約法違反訴訟であった(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』「勝訴の影響」)。東急不動産(販売代理:東急リバブル)が隣地建て替えによる日照・通風・眺望喪失や作業所の騒音という不利益事実を隠して新築マンションをだまし売りしたことに対して、自己決定権・消費者の権利の侵害として売買契約を取り消した。これは所有的個人主義の貫徹である。
その後は開発で苦しむ住民反対運動と連携することになった。ここでも住民側の最大の武器は所有権である。所有権が収用の最大の障害になっているし、それが公共の福祉の名目で安易に否定されることが開発問題の課題になっている。開発予定地に土地所有権を持たない周辺住民の反対運動も、法的な論理構成は個々人の人格権の侵害になる。ここでも所有的個人主義の徹底が求められている。安易な私権の制限と共同の賛美は自分達の武器を譲り渡すことになるのではないかと懸念する。
Harveyは新自由主義国家の特徴として、市場論理貫徹の権威主義を挙げ、それが個人的自由とは相容れないものであると指摘する(David Harvey著、渡辺治監訳『新自由主義−その歴史的展開と現在』「第三章 新自由主義国家」)。たとえば非効率で高度に官僚化した大企業による一方的な契約条項(約款)の押し付けである。これと対抗するためにコモンズを持ち出すことが必然的であるか疑問がある。所有的個人主義による個人的自由の徹底は有効な対抗軸にならないだろうか。
特に日本は家父長的な古い体質が残存している。日本ではコモンズの復権が特殊日本的集団主義の復活強化につながりかねない。これは体制を批判する側の問題でもある。新自由主義を舌鋒鋭く批判する人物が体育会系的体質を有していることがある。日本では所有的個人主義を推し進めて家父長的体質を一掃することに進歩的な価値があるのではないか。
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